文字サイズ

リスクマネジメントニュース
「入所時リスク説明」の重要性~ リスクコミュニケーションができていますか~

介護老人保健施設の利用者は、老健がどのようなところか正しく理解しておられるでしょうか。また家族は、老健において、高齢者の自立を支援し、家庭への復帰を目指すため、医学的管理のもと、リハビリテーションなどが行われていることをご存知でしょうか。
老健はリハビリ施設であり、また原則的に拘束を行わないことから転倒・転落による事故の可能性があることを、利用者の家族が理解していない場合には、事故発生後に訴訟等のトラブルが発生する可能性があります。実際に訴訟となっているケースでは、入所時の説明が不十分であったと思われるもの、また口頭での説明の場合には、「説明をした」、「いや、説明は聞いていない」と水掛け論になっているものもみられます。

リスクに関する説明の重要性

それでは、なぜ入所時にリスクに関する説明を行うことが重要なのでしょうか。それは利用者や家族の満足度は、次の図式が示すように、利用者や家族が老健に何を期待しているかに大きく左右されるからです。

老健はどのようなところか、そしてそこではどのようなサービスが提供されているのかを、利用者や家族に的確に理解し納得してもらうことにより、実際に提供されるサービスとの差がなくなり、「こんなはずではなかった」というトラブルが防げます。
また老健に入所すれば、医師、看護師、そして介護スタッフが大勢いるのだから転倒・転落や誤嚥・誤飲・窒息は起こらないと、利用者や家族が考えているのであれば、その過大な理解を適正な期待に修正しておく必要があります。

説明しておくべき項目

老健は、利用者が快適な入所生活を送れるように、様々な形で安全な環境作りに努めています。しかし必要な注意義務を尽くした場合でも、利用者の身体状況や病気に伴う様々な症状が原因となり、次のような危険性があることを、利用者や家族に十分説明しておきましょう。

■歩行時の転倒、ベッドや車椅子からの転落等による骨折・外傷・頭蓋内損傷の恐れ
■リハビリ中の転倒・転落
■高齢者の骨はもろく、容易に骨折する恐れ
■高齢者の皮膚は薄く、少しの摩擦で表皮剥離ができやすい
■高齢者の血管はもろく、軽度の打撲でも皮下出血ができやすい
■誤嚥・誤飲・窒息の危険性が高い
■脳や心臓の疾患により、急変・急死する場合もある など
(*)詳細については、平成27年3月版「入所時説明書(参考例)」で参照ください。
URL:http://www.roken.or.jp/wp/info/regulation#nyushosetumei

こんなケース、どう対応しますか

①利用者
76 歳の男性。重い認知症(要介護度4)があり、徘徊や大声を上げるなど日常生活に支障をきたすような症状もある。帰宅願望が非常に強く、また介護職との意思疎通が難しい。
②事故の概要
<1回目のショートステイ>
帰宅願望が強く、クローゼットの中の物を探し、居室で荷物をまとめ帰宅準備をしている。何度も廊下を往復しているが、よろけることも多い。
<2回目のショートステイ>
居室で転倒しているところを発見される。家に帰る準備をしていたところ、クローゼット内の上の棚から荷物を取ろうとして、椅子から落ちてしまったとのことであった。右大腿骨骨折と診断される。

利用者は、帰宅願望が強く、物を探す行動をすることは十分に予見できます。このような場合は、荷物を手の届く場所に置いておく、また椅子を含め踏み台となるようなものは部屋から取り除くなどの配慮をし、転倒・転落を防止することが重要です。ただし、1回目のショートステイでの行動から考えると、また身体拘束も行わないわけですから、施設としての見守りにも限界があります。2回目のショートステイでは、家族に対して転倒・転落の可能性につき事前に十分、説明をしておく必要があるでしょう。

これも忘れずに

利用者や家族は、医療・介護について、必ずしも詳しくありません。時間をかけて説明しても、相手に理解されなくては意味がありませんので、次の点にも留意しましょう。

①説明は、口頭のみではなく、書面を使って行う
②頭蓋内損傷、表皮剥離、誤嚥・誤飲・窒息などの専門用語については、図なども用い、わかりやすく説明する

③相手が説明の内容を理解しているか、その都度確認する


本田茂樹
㈱インターリスク総研 研究開発部長
.
.
.