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リスクマネジメントニュース
老人施設のリスクマネジメント ~経口補水療法の重要性~

第18回 全国介護老人保健施設 愛知大会 ランチョンセミナー

全老健共済会主催、大塚製薬工場共催の「ランチョンセミナー」が10月11日、名古屋市国際会議場白鳥ホールで開催され、約650名が参加した。そこで、共済会による転倒・転落へのリスクマネジメントのマニュアルに関する説明の後、大塚製薬工場・利根義人氏が行ったセミナーの模様をレポートする。

利根 義人
1990年、広島大学大学院医学系研究科・博士課程卒、大塚製薬工場入社。商品研究・開発に携わり、現在は病者用食品「経口補水液オーエスワン(OS-1)」関連担当のプロダクトマネージャーとして活躍。

体内の水分量を保つことは命を守るためにとても大切

利根氏は、初めに19962006年の約10年間における感染性胃腸炎の発生状況を示し、ノロウィルスが大流行した2006年が過去10年で最多であったことを指摘。また、別の資料で熱中症患者の9割以上が軽度(35.0%)、中等度(60.4%)であることを紹介した。老健施設におけるリスクマネジメントの一環として、特に夏と冬の脱水対策が重要であり、その手段として経口補水療法(ORTOral Rehydration Therapy)を有効に活用してほしいと述べた(詳細は後述)。

まず、健常成人の場合で体重の約60%を占める水分は、細胞内液約40%、細胞外液約20%に分かれ、Na+濃度は細胞内液約5mEq/ℓ、細胞外液約145mEq/ℓとなっていること、この体液の濃度と量は非常に巧妙な体液調節機構(内分泌系)で維持されていることに触れた。また家計簿にたとえて、健康な人の場合は尿や大便、不感蒸泄(呼気中や皮膚からの蒸散)によって失われた水・電解質(支出約2,000ml)を、無意識のうちに毎日バランス良く補給(収入約2,000ml)できている。しかし、下痢・おう吐・発熱による発汗(特別な支出)や、食事摂取不足(収入減少)がある場合は、バランスが崩れ、脱水(赤字)の原因になることとわかりやすく解説した。

体内水分量の1日の収支

体内水分量の1日の収支

体内水分量の1日の収支

脱水は水分とNa、どちらの欠乏が主であるかによって、高張性脱水(水分>Na)、等張性脱水(水分=Na)、低張性脱水(水分<Na)に分類される。このうちのどれに当てはまるかを見極めて補充する内容と手順を考える必要があり、普段から次のような高齢者の生理学的な特徴や行動様式を念頭におき、一人ひとりのケアに注意を払うよう呼びかけた。

●加齢に伴い、体内水分量が体重の約50%に低下する。
●のどの渇きを自覚しにくくなる(渇中枢機能低下)。
●腎臓の働き(尿濃縮能)が低下し、水分節約が難しくなる。
●のどが渇いても水分摂取を自分自身で控えてしまう(介護する側がトイレの回数を減らすために、水分摂取を絞ったりする場合もある)。
●様々な疾患で薬を服用する機会が多くなり、副作用で脱水が助長されている場合もある。

経口補水液(ORS)ガイドラインと各種製剤(医薬品、食品)およびイオン飲料の組成

経口補水液(ORS)ガイドラインと各種製剤(医薬品、食品)およびイオン飲料の組成

軽度から中等度の脱水状態時に適した経口補水療法(ORT

現在、日本の多くの医療機関における脱水治療では、重症度にかかわらず、ほとんど輸液を用いた経静脈輸液療法(IVTIntravenous Infusion Therapy)が一般的だ。他方、世界に目を向けると、軽度から中等度の脱水状態には経口補水液(ORSOral Rehydration Solution)を摂取させ、水・電解質補給をはかるORTが推奨されている。

ORTは、1970年代に発展途上国におけるコレラ患者への使用で臨床における有効性と安全性が実証されて以来、世界各地で注目・実践されている。2003年に改訂された米国の疾病管理予防センター(CDC)のガイドラインでも、軽度から中等度の脱水状態へのORSの使用を推奨し、重度の場合は、まずIVTを実施し、状態安定後、できるだけ早くORTに切り替えるとしている。利根氏は、「日常的な発汗時の補給にはスポーツ飲料、多くの電解質が失われる発熱による発汗やおう吐、下痢などの際はORSが適しているので必要に応じて使い分けてほしい」と述べた(グラフ参照)。

ORTの理論的根拠として、小腸の上皮細胞にあるナトリウム/ブドウ糖共輸送機構を利用した水分吸収の仕組みが知られている。この共輸送機構は、コレラやロタウイルスなどによる厳しい下痢のときでもその機能を維持し続けることが明らかになっている。小腸でのNaと水分の吸収におけるブドウ糖(炭水化物)の至適濃度は1.02.5%と考えられおり、各ORSガイドラインも1.02.5%に入っている。

日本では200541日より、「経口補水液オーエスワン®OS-1」が軽度から中等度の脱水状態に適した食品(厚生労働省許可・特別用途食品・個別評価型病者用食品)として販売されている。軽症から中等症の脱水状態時に適した食品である。「失ったものを失った分だけ、足りないものは足りない分だけ、あわてず、ゆっくり補いましょう」と利根氏は締めくくった。

セミナー参加者からは、「脱水における水分と塩分の関係がよくわかった。過度の発汗やおう吐、下痢のときにORSは便利だと思う」(名古屋市の施設経営者)といった声が聞かれ、有意義な内容だったことが伺える。

比べれば違う電解質濃度(Na濃度の比較)

比べれば違う電解質濃度(Na濃度の比較)

高齢者介護における経口補水療法の活用

第46回 高齢者の脱水症状

~経口補水療法の重要性~

老人施設のリスクマネジメント ~経口補水療法の重要性~