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リスクマネジメントニュース
高齢者の水・電解質管理〜転ばぬ先のつえ、経口補水療法のすすめ〜

第20回 全国介護老人保健施設 新潟大会 ランチョンセミナー
2009年7月23日朱鷺メッセ・マリンホール

新潟市の朱鷺メッセ・マリンホールにて7月23日、地方独立行政法人東京都健康長寿医療センターの井藤英喜センター長による「ランチョンセミナー」(大塚製薬工場共催)が開催された。大阪にある介護老人保健施設竜間之郷代表者の川合秀治氏が座長を務め、約240人の参加者は真剣に聞き入っていた。

井藤 英喜氏
京都大学医学部卒、医学博士(東京大学)。2006年より地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(旧称:東京都老人医療センター)理事・センター長。

脱水・電解質異常は、高齢者特有の病態の発現に関わる

セミナーは老健施設関係者などで満席のなか、座長の川合氏による講師の紹介から始まった。

井藤氏はまず、高齢者疾患の特徴(下記)を述べ、摂食、排泄、歩行といった日常生活動作機能が入院を機に低下することを示した。特に75歳を超えるとその傾向が強く、疾患を発症して要介護状態になったことで本人のQOL(生活の質)が低下し、新たな疾患を発症して強度の要介護状態に陥りやすいと解説。合わせて、QOLの低下は脳血管障害発症の危険性を高めるため、心を支えるケアが大きな意味を持つこと、本人のQOLの低下を防ぐことが大切だと強調した。

次に、高齢者疾患の特徴として挙げた10項目のうち、●印をつけた8項目に脱水・電解質異常が関与していると指摘。脱水は水分とナトリウム(Na)、どちらの喪失が主であるかによって、高張性脱水[水分>Na]、等張性(混合性)脱水[水分=Na]、低張性脱水[水分<Na]の3つに分類される。このうち、高齢者の脱水の大半は、水分とNaの両方が失われる等張性(混合性)脱水であり、高齢者のケアにおいて、水分とNaの両方を補給することが重要だと訴えた。

体内の総水分量は、新生児で体重の80%、成人は60%だが、高齢者はおよそ50%と少ない(体内の水分貯蔵庫である細分内の水分量が特に減少)。さらに加齢とともに、口渇注水機能や食欲の低下、夜間多尿・失禁といったことへの恐れなどにより、水分や電解質の摂取が不十分になるうえ、水分や電解質を体内にとどめておく腎臓機能なども低下する。このため、高齢者は脱水・電解質異常を起こしやすく、脱水を予防するには水分とともに、50mEq/L程度のNaを含んだものがよいと述べた。

高齢者疾患の特徴

●印:脱水・電解質異常が関わる項目

●一人で多くの疾患をもつ(多病:multiple pathology)。

●一つの病気が他の病気を悪化させ、悪循環を形成しやすい。

●重症化しやすい。

●治癒が遅延したり、入院日数が長くなる人が多い。

○生活機能障害(生活の自立に必要な機能の障害:歩く、食事を摂る、排泄するなどのからだを動かす機能や、認知機能の低下など)が背景にあったり、疾患発症により生活機能障害が引き起こされたり、悪化することが多い。

●非定型的症状・微候を示すことが少なくない。

●非特異的注水神経症状(意識障害、せん妄、認知症様症状など)を示すことが少なくない。

●社会的背景(伴侶の死など)、心理的背景(うつ病など)が疾患の発症、悪化要因になってる人が多い。

○予後が社会的背景(家族関係、経済的事情など)により左右されることが多い。

●多剤併用、薬剤副作用が多い。

水分・塩分補給:点滴か経口補水療法(ORT)か?

●点滴は医療行為(医師の指示が必要)。

●点滴は拘束を伴う。

●点滴中は体動、排泄が困難。

●長期の拘束は寝たきりをもらす。

●点滴器具、点滴手技、観察のための人手が必要。

●血管確保の難しい場合がある(小児、高齢者、肥満者など)。

●点滴速度、点滴抜去、点滴漏れなどによる事故。

●点滴はたびたび針の差し替えが必要。

→安易な点滴は本人のQOLを低下させるだけでなく、介護者・家族の心理的、時間的、経済的負担を多くする。したがって、経口的な水分及びNa補給(ORT)がbetterである。

軽度から中等度の脱水状態時に適した経口補水療法(ORT)

水分と電解質(Na)の補給は、点滴または経口補水療法(ORT:Oral  Rehydration Thapy)のどちらかで行う。井藤氏は点滴のデメリット(上記)を挙げ、「重度の脱水状態時は点滴となるが、軽度から中等度の場合はORTが有効」と語った。

ORTは経口補水液(ORS:Oral Rehydration Solution)を用いて脱水状態を改善させる方法である。

低開発国の代替医療から先進国の標準的な医療手段になってきており、WHOや米国小児学会などからORSの組成も公表されている。「ORTは胃ろうや逆流性食道炎などの水分、Na補給にも有効。1日500~1,000mLを目安に、ゆっくり、こまめに補給する」(井藤氏)とアドバイスした。

実態調査の結果からみた全国の老健施設での水分管理

セミナーでは、今年6月に井藤氏が実施した全国の老健施設へのアンケート調査の結果(3,345施設に配布し、503施設が回答)から、老健施設でも水分管理の実態やORTの普及度についても語られた。それによると、83%の施設が、お茶やNaの少ないスポーツドリンクを用いた水分管理を実施しており、高齢者の脱水予防・治療に電解質(Na)の補給も必要であることを96%が「知っていた」と回答。しかし、ORTについては「聞いたことがある」が44%、「よく知っている」は20%、「知らない」が35%と、あまり知られていない。

日本では、軽度から中等度の脱水状態時にした食品として、2005年4月に「経口補水液オーエスワン®(OS-1)」(厚生労働省許可特別用途食品個別評価型病者用食品)が販売されている。こういったORSが市販されていることに関しても未だ認知度が低いことが調査結果から示された。

井藤氏はORSとその他の飲料の組成(下記)を示し、「ORSはブドウ糖を含むことにより、水分、Naの吸収速度や吸収効率がよい。スポーツドリンクよりもNa濃度が高いことは、Naが尿に排出されがちな脱水が憂慮される高齢者のNa補給に有利」と解説。最後に座長の川合氏は「老健でのケアにおいて、ORTが有用であることがよく分かったと思う」と延べ、セミナーかを締めくくった。参加者からは、「高齢者のQOL低下を防ぐためのケア段階の説明がよかった。利用者との関わり方も参考になった」(山形県の看護師)といった声が聞かれ、実践に役立つ内容であったことがうかがえた。[提供/㈱大塚製薬工場]

経口補水液(ORS)とその他の飲料

経口補水液(ORS)とその他の飲料

経口補水液(ORS)とその他の飲料

経口補水療法(ORT)

経口補水療法(ORT)

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~経口補水療法の重要性~

老人施設のリスクマネジメント ~経口補水療法の重要性~